戦闘妖精・雪風シリーズ

 神林長平がデビューしたころにSFマガジンを読み始めているから、初期(ごく初期)はよく読んでいた。思春期をテーマにした『七胴落とし』なんか高校生だったから随分とはまった。ただその後はほとんど読まず、たぶん20数年ぶりになる。この雪風のシリーズはそのころSFマガジン上の短編から読んでいて、<改>の方ではない『戦闘妖精・雪風』も読んではいたという状況。近年ごぶさただった日本SFもちょっとずつ読むようになったので、『アンブロークン アロー』が出たのを機に、シリーズごとまとめて読んでみた。以下シリーズをまっさらな状態で読みたい方にはネタばらしが含まれてますんで、この辺でお帰り下さいませ。

『戦闘妖精・雪風<改>』 南極大陸に突如出現した超空間通路によって、地球への侵攻を開始した未知の異星体<ジャム>。反撃を開始した人類は、<通路>の彼方に存在する惑星フェアリイに実戦組織FAFを派遣した。・・・(裏表紙の紹介文から)再読してやはり傑作と思った。元々、SFファンなんだけどメカ属性がほとんどない自分には最初から面白く感じられた話ではない。文章の多くを占める戦闘機用語(なんだよな?架空なのか実在なのか、はたまた何の用語かすら分からない)に引っ掛かりどうも読み進めない。しかし少し辛抱して読んでいくと各短編ごとのテーマは明快で、ほどなく内容がつかめてくるし、連作短編としてのつながりもいい。特に背景となる惑星フェアリイのモノトーンな冬景色は美しく、全体の抑制された描写や孤独な戦いの様相とよくマッチして雰囲気を盛り上げる。<改>での変化というのはよく分からなかったが、この巻は素晴らしい。
『グッドラック 戦闘妖精・雪風』 独自判断を行うようになった(らしい)雪風によって機外へ射出されてしまった主人公零の不在のまま話がはじまり、敵/味方とは何か、未知の存在とコミュニケートする方法とは、人間/機械とは何か、といったような深遠なテーマへと話の主軸は移る。『アンブロークン アロー』の中心となる登場人物がこの巻で揃う。前作からここで少し路線が変わったかなあ。驚くような展開もあったりして前作から読んでいけば読み進めるのにさほど苦労はないが、エピソードでテーマを浮き彫りにするというやり方が後退し、直接主人公が会話で上記のようなテーマについてディスカッションしていく場面が増え、一般的な意味での小説らしさが減ってくる。
『アンブロークン アロー  戦闘妖精・雪風』 ジャーナリストのリン・ジャクソン(シリーズ初期から登場、ジャムとの戦闘を追い続けている)に届いた手紙は、ジャムと結託してFAFを支配したというロバート大佐からの人類への宣戦布告だった。基本的に『グッドラック』の延長線上、より戦闘の意味合いが混沌として形而上学的なディスカッションがやはり会話(や独白)で語られていく感じ。これまた話としては予想外の展開が起こったり、それぞれの過去が明らかになったりしてそれなりに面白いものの、全体としてはディスカッションの比重が大きく、生硬な印象。また、零がなんだか熱い人物に変貌しているのにも違和感が。とりあえずこの巻でも完結はしていない様子。

 異星体との戦闘をテーマにしているので、当然戦闘機を操縦する描写やそれに関する会話が多くを占める。その一方で、登場人物も必ずしも多くはなく主眼はアクションや人間関係にはなく上記の様なディスカッションにある、という変わったシリーズである。要は普通の戦闘アクションものでも戦争人間ドラマでもない、ということである。SF的にもアイディアは『グッドラック』以降も出てくるもののそれを魅惑的に描写するシーンは乏しくダイナミックさを欠くので、ディスカッション自体を楽しめる人ではないと向かないのではないか。というわけで、興味のある人には最初の『戦闘妖精・雪風<改>』を読んでみて、その後を読むか決めるのをおすすめします。正直自分には『グッドラック』『アンブロークン アロー』は面白くなかった。

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『老ヴォールの惑星』 小川一水

 たまには日本の現代SFを読んでみようと思って、手にした。とはいえもう3年前に既に出ているし名の通った本だがそこはご容赦頂いて。期待以上の面白さだった。基本的にはクラークの流れを汲んだ最近ではむしろ貴重なポジティヴな宇宙科学SFといえる(2006年版SFが読みたい!のインタビューでは小松左京の名も出てくる)。アイディアは正統派かつ現代的にブラッシュアップされているところが素晴らしい。
「ギャルナフカの迷宮」 近未来のとある国、政府に批判的な姿勢をとる者は投宮刑という刑罰に処せられ、地下の謎の大きな迷宮に放置される。各自が別々の食料のありかが書かれている地図を持つのみで、全体の地図がなくその食料が一人分しかないことや<生肉喰い>と呼ばれる食人集団への警戒から、複数の人間が居るのに共同で行動出来ない、という設定がユニーク(ただしこんな迷宮の状況を維持するのは政府側にとってエラくコストがかかる気がするけど)。主人公のテーオが自分の居場所を次第に把握していくきっかけのアイディアが巧い。後半文化人類学SF方面に向かうのもちょっと意外性があって楽しめる。
「老ヴォールの惑星」 1995年に発見されたというホットジュピターを舞台にした話。熱風吹きすさぶ過酷な惑星で生命体が宇宙への交信を図るという正調クラーク系ハードSF。現代でもこういった作品が成立することを証明してみせたのだから、若いのに立派なことじゃうむうむ。←だから誰?
「幸せになる箱庭」 ファーストコンタクトを目指す宇宙飛行士達の話。これまた随分ストレートなネタだなあと思っていたら、ひとひねりあって後半に現代的なヴァーチャル・リアリティネタになってくるのがこれまた意外。一番楽しめた作品かも。
「漂った男」 宇宙軍パイロットのタテルマ少尉は流星との激突で、広大な惑星パラーザに不時着する。栄養補給可能な海に覆われた星いるが大きすぎて救出が不可能な星で、タテルマは通信だけを頼りに海をただ漂う。こちらはワンアイディアで引っ張っていくタイプの物語。通信の向こうでいろいろなことが起こるという設定のため、主人公の状況は変わらないのに飽きずにどんどん読ませてくれる。
 最後の作品に代表されるようにどこかすっとぼけた現代的な明るさのある主人公が出てくるのが特徴で、前向きな全体のトーンが必ずしも押し付けがましく感じないのはそのせいだろう。

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