『魚舟・獣舟』 上田早夕里

 うおぶね・けものぶね、と読むらしい。日本SF作家の新人賞として小松左京賞と日本SF新人賞があって、いずれも順調に回を重ねているけど、実は受賞作家の作品をあんまり読んでいない(特に後者)。元々日本SFは子供の頃から親しんできたので興味はあるのだが、近年SF以外のものを結構読むようになったことや元々読書スピードが遅いのでどうしても強く興味を惹かれるものしか手が伸びないのである。で、本作はかなり評判が良いし、大好物の短編集であることから読んでみた。どれも楽しめたが、ちょっと意外な読後感であった。
「魚舟・獣舟」 「生まれてはじめて獣舟を見たのは七歳のときだ。」という冒頭から次第に主人公とその住む異世界の様子が明かされていく、という堂々たる正攻法の本格SF。山岸真さんの解説にも触れられているが、漢字の使い方が実に効果的。
「くさびらの道」 新種の真菌によるオーリ症が猛威をふるう。そんな中オーリ症に感染して死ぬと幽霊になるという噂が流れていた。日本らしい湿気を含んだパニックホラーもの。
「真朱の街」 少女を連れて仕事場から逃走した男。ちょっとした好きに謎の女に少女をさらわれてしまう。不思議な街の様相にもきっちりとSFアイディアが盛り込まれている。「ブルーグラス」○ 珊瑚礁の破壊がより進行し、徹底した保護区域が設けられるようになった近未来。失恋した男は昔恋人と潜った今や禁止区域となった思い出の場所へと向かう。これもしっかりとしたアイディアが入っているが、日常的なレベルに留まっており、ストーリーそのものの苦さが印象深い。
「小鳥の墓」 警察に追われる男は、誰もがうらやむクリーンな理想都市で過ごした子供の頃を思い出していた。全体の半分以上を占める短い長編というか長い中編。高度な管理社会への少年のフラストレーションを描いた、主人公の思いが切ない青春SF。

 ちょっと意外な読後感と書いたのは、実にクラシカルな日本SFで、とても懐かしい感じがしたということ。根底に流れているのは寂寞たる情景や東洋的な諦念で、これらは小松左京や光瀬龍といった日本SFの先達の諸作の読後感にダイレクトに重なる(だから「小鳥の墓」は<青春>SFといった言葉が似合う気がする)。正直もっと下の世代の作家でこうした味わいを得ることになるとはあまり想像していなかった(古臭いという意味ではなく、エンターテインメント小説では心理描写やキャラクターなど最近はこのような書き方をする人が少ないというだけだろう)。ライトノベル的な方向で成果を収めたり、ミステリと融合したり、前衛的な手法でユニークな作品を創造したり、という多様性のある現代のSFの中で、こうした日本SFの正統的後継という方向性があるのもまた歓迎すべき多様性の一つなのかもしれない。

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