『木曜日だった男 一つの悪夢』 チェスタトン

 変な作品だなー。でもなかなか印象的でユニーク、ミステリのいろんなオールタイムベストに挙げられているのもわかる。
 主人公の詩人ガブリエル・サイムは同じく詩人で無政府主義者のグレゴリーとディスカッションをしていたが、やがてグレゴリーに連れられ、秘密を守るように厳命された上で、無政府主義者の集まりに招かれる。そこは日曜日というあだ名がついた議長を中心にそれぞれ曜日のあだ名がついたメンバーがいて爆破計画について話し合っていた。また、木曜日の名がついたメンバーが死亡して、その後継はグレゴリーが予定だったのだが、サイムは自らの素性をグレゴリーに告白して・・・。
 おどろおどろしい情景描写が目立ち、抽象的な論議が飛び交い、結構重々しい空気感が漂う一方で、ストーリー展開はどんでん返しに次ぐどんでん返しのにぎやかなドタバタアクションという作品で、このアンバランスさが変に後を引く。解説を読むと割とシリアスに書かれたようで、また何とも不思議な気持ちになる。そういう意味ではこの作品自体がミステリ性を持っているというメタっぽい構造を持つ作品といえるのかもしれない。

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『未来警察殺人課』 都筑道夫

 都筑道夫、面白そうと思いながらあまり読んでいない。昔中学生ぐらいの頃、新聞の日曜版(巡回してみると朝日のようだ)にSF作家やミステリ作家のショートショートが交代で連載されていて、毎週楽しみにしていた。とにかくハズレの作品が無かった記憶があり、都筑道夫もそのメンバーの一人だったはず。他の雑誌でもショートショートは読んでいた気がする。あとはSFアドベンチャーに連載されていた『暗殺心(アサッシン)』、忍者ものながら日本ではない異世界を舞台にした独特の雰囲気のある作品だった。ただ基本的にミステリ作家という印象があり、若い頃はコアなSF指向だった(結局それも大した量を読めていないのだが)のですれ違い、現在にいたってしまった。
 さて『未来警察殺人課』。そんなすれ違いの時間(せっかく現役の時期に小説を読んでいたのになあ)が残念になるぐらいのSFミステリの傑作だった。昔は根本的にミステリの読み方がわからなかったからしょうがないんだけど。
 
 時は未来。人類は地球を捨てて、他の星に移住し数十世紀になる(各土地に何故か昔の地球の地名がついていて、いろんな言語も残っている)。コンピューターとテレパシーによる予防医学システムが発達し、殺人を犯しそうな人間は隔離され、極端に犯罪は減っている。表向きは殺人事件は三十年間起こっておらず、警察に殺人課は存在しない。しかし実際は殺人が起こる前にコンピューターの判断を元に該当者を処分する連中が警察の裏組織にあった。しかもそいつらはそうした健康管理システムでも矯正不可能な殺人衝動と特殊技能を持つ危険人物たちだったのだ!もちろんそうした連中だから、規定外の行動を取ればボタン一つで抹殺される装置が組み込まれている。主人公星野もその一人。抑えきれない殺人衝動を犯罪者に向け、スリルのある毎日を送る合法的な殺人者<殺人課>の星野が今日も事件を解決する!(以下各編の感想、基本どれも面白い)
「人間狩り」 年来の友人が自分の妻の愛人であったことを知った水沢は殺人を犯す危険性が高いと主治医に判断され、狩猟による解消をすすめられ、ケニアへ渡航した。しかし、その水沢が行方不明となり、星野はケニアへ派遣される。どの作品もなのだが、テンポよく展開が早く、ミステリやスパイ物やSFの美味しいところがこれでもかと盛り込まれ(登場する女性は各国のセクシー美女ばかり)、敵味方は二転三転ととにかくいたれりつくせりの満点娯楽小説であり、本作もその典型。
「死霊剥製師」 ニューヨークで捜査上のミスを犯してしまった殺人課の同僚が失踪。処分される予定となっていたが、星野は48時間の猶予をもらい、捜索を開始する。殺人課はどの国でも裏組織なので、いつも変なところにあり、ニューヨークではポルノショップでにある。あと裏組織だからということで、現地のスタッフと普通に接触出来ないという設定で、いつも変な形でコンタクトを取ったりする。そんなお約束も楽しい。ラストのどんでん返しにはおお!テンション上がったー。
「空中庭園」 今回の舞台は東京。新宿に空中庭園ができたが、その設計者に犯罪傾向があることが判明した。そこに爆薬が仕掛けられて、特定の人物に反応するようになっているのだが、それが誰なのかが分からない。この作品に限ったことではないのだが、アクションも巧いんだよね、映像的というか。やっぱりテンポもよいし。クライマックスにはなかなか美しいシーンも描かれている。
「料理長ギロチン」 シェフとルビがふってある。日本から手強い犯罪者がパリに逃亡、どうやら麻薬組織と接触しているらしい。久しぶりにそいつを仕留めてやろうとパリに乗り込んだ星野だったが、麻薬犯罪を追う現地警察に麻薬捜査を優先してくれと言われてしまう。麻薬犯罪でターゲットが捕まってしまうとせっかくの殺人の機会を失ってしまう。そこで星野は。厳しいルールの中で、何とか殺人を遂行しようとするゲーム性の高さ、本格ミステリ度の高さが素晴らしい(何とか殺そうとするってのが可笑しいけど)。シャレの利いた(利きすぎ?)グロテスク料理の気色悪さについてもご一読あれ。
「ジャック・ザ・ストリッパー」 タイトル通りスコットランド・ヤードが登場。人口問題に関する国際会議に出席する日本の小児病理学者がイギリスの学者に殺意を持っているらしいのだ。終盤のジェットコースターでのアクションが最高。謎解きも、私は好きですよ。
「氷島伝説」 画家として休暇でグリーンランドに出かけた星野。謎の熱病患者をきっかけに、やっぱり美女(新聞記者)と知り合うのだが、洞窟調査への参加に誘われる。いろいろな舞台を用意してくれる本シリーズだが、それぞれの舞台がきちんと生かされている話になっているんだよなあ。さすが。
「カジノ鷲の爪」 この星ではラスヴェガスは海上にある。その中の最大のカジノ・ホテルには療養所がついていて、特殊な治療で犯罪傾向のある人々に対し異常に高い効果を上げているという。そこに日本から逃げ込んだ人物がいるというのだが、悪いうわさもあるラスヴェガスからの精密検査を信用できるのか。星野は現地に赴く。冒頭のボートのシーンとか007っぽくていい感じ。オチはなんというかお見事!と思ったんだけど、まさか解決を放り出した結果?面白いからいいけどね。
 
 まずは基本設定の凄さだけでも降参なんだけど、さらにサーヴィスが重ねられてるんだからもう腰が抜けそう。テレパシスト、原住民(他の星だから原住民がいる)といったSFの設定もちゃんと生きていてSFファン的にも満足。早速『未来警察殺人課2』をポチっとしてしまった。是非復刊してほしいです。

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『ポジオリ教授の冒険』 T・S・ストリブリング

 途中まで読んでそのままになっていたことに気づいて、ようやく読了。『カリブ諸島の手がかり』のポジオリ教授シリーズ(講師だったり肩書は、あいまいのようだ)。そういえば今年も夏に読もうとしていたんだっけ。あっさり季節が過ぎてしまった。「ベナレスへの道」級の破壊力を持つ作品がないので、今一つインパクトが弱いが、まずまず楽しめた。(○が特に面白かったもの)
「パンパタールの真珠」 真珠盗難事件の解決を依頼されて。舞台のマルガリータ島はこんなとこらしい。凝ったミステリではないが、南洋の空気感がイイ感じの作品。
「つきまとう影」○ ポジオリ講師が免職された事件の顛末。どうやっても逃げられないというモータッグ氏の恐れる追跡者の正体とは。プチ<ベナレス>な、ややぶっ飛んだ作品で、報告書からはじまる構成もはまってるし、こういうのは好み。
「チン・リーの復活」 製材所の所長と週末をくつろぐポジオリ。そんな中殺人事件が起こってしまう。これはなあ。なんというかその・・・えーとうまく感想が書けないけど、素直には楽しめませんな。
「銃弾」 銃で射殺された牧場主。雇用人の黒人が容疑者となったが、その母親に無実を証明してほしいとの依頼を受ける。正統派な謎解きもの。オチがなんとも。
「海外情報」 マイアミ税関が受け取った電報にはあと三十分で埠頭に到着する船に密輸業者が乗っているとの知らせだった。検査官に請われて、船から降りる乗客のチェックをすることになったポジオリだが。『手がかり』の「亡命者たち」のポンパローネが再登場。
「ピンクの柱廊」 不動産業者である父親が助けを求めたあと失踪する夢をみた、とポジオリに訴える娘。どうやら実際に行方不明となっているらしいが、警察には内密に調査をして欲しいと言われてすまう。解説にもあるように、このシリーズではちょっと珍しいアクションあり。ミステリらしいオチもあって見せ場の多い作品。
「プレイヴェート・ジャングル」 急行列車に乗り合わせた新婚夫婦から、とある人の無実を証明する方法についての相談を受けるポジオリ。家族の過去をめぐるちょっと苦みの入った味のある話。
「尾行」○ 銀行員のサミュエルズは療養所の人間から尾行されているという。そこに入所している女性と不倫関係にあって、その女性がいなくなってしまったためであった。進行のテンポがよくオチも見事に決まっている。
「新聞」○ 「海外情報」の続編。ミステリ好きで頼まれもしないのに事件解決に一役買う出しゃばりなタクシー運転手がツボで、こっちの方が面白い。
 『手がかり』ではどの作品にも南洋の光景が広がっていて、全体の統一感があった(作品の順番も良かった)が、その辺りは本書ではややバラつきがある。また、事件の真相が分かっても必ずしも事態の解決に至っていなかったり、ポジオリが自分の判断で真相を自分の胸にとどめたりするなど、ちょっと大らか過ぎる感もある。あと巻き込まれ型だったはずのポジオリがやや普通の探偵っぽくなっているのも少々不満。まあそれでも、面白い短編率が高かったのでいいか。『事件簿』も読みたいところだなあ。

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『空飛ぶ馬』 北村薫

 直木賞受賞記念で初めて読んでみた(これだけ有名な作家でもこんな読者がいるんだからやっぱり作家にとって賞というのは大きいんだろうなあ)。期待通りの面白さでありました。

 主人公は読書にふけってばかりの十九歳の女子大生。身の回りのちょっとした事件や謎を彼女の話や観察から鮮やかに解き明かすのは春桜亭円紫という落語家。
「織部の霊」 主人公の大学の先生が見た不思議な夢の謎。
「砂糖合戦」 喫茶店で見かけた女性三人組の奇妙な行動。
「胡桃の中の鳥」 円紫の独演会に招かれ、蔵王へ友人と旅行へ出かけた主人公が出会った思わぬ出来事。
「赤頭巾」 歯医者の待合室で、近所の家の噂話を聞かされて。
「空飛ぶ馬」 雑貨屋の人の良い若旦那。どうやらいい人が出来たらしい。
 
 優れた技量があれば派手な事件を描かなくてもミステリは成立するという好見本。細やかな言葉づかいが伏線につながっていく手つきが素晴らしい。そこに落語と文学に関する蘊蓄が織り込まれ、ちょっとした苦味も振りかけられている。連作らしく各編のつながりも全体の起伏をつくっていて、最後にいい話を持ってくるあたりまさに解説のいうとおり心憎いばかりである。苦さはあるとはいえ、基本的には読者を圧倒し過ぎないもてなしのよさが作風と思われ、甘い話だと切り捨てる向きもあろう。しかし世の中強烈な話を好む読者ばかりではないわけで、穏やかでありながら高度な技巧が凝らされたこうした作品が気軽に読める状況は大いに歓迎すべきことだろう。今度寄席に行ってみようかな。

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『宇宙怪人ー少年探偵』 江戸川乱歩

 昨年末から出ている<少年探偵>シリーズの懐かしい装丁での文庫版。以前から気になっていたのだが、今回初めて購入。表紙の絵は柳瀬茂(今まで意識してなかったけど)で、もうこの絵柄だけでいろいろ思い出す。多くのミステリやSFファンのご多分にもれず、このシリーズが当ブログ主の読書の原点である。何巻読んだか同級生と張り合った覚えもある(その時のライバルだったカメちゃんは今どうしているだろうか)。図書室は古い木造の校舎の一角にあって、雰囲気もばっちりだった。その後ほどなくして校舎は取り壊され、しばらくバラックで授業を受けていたなんてことまで思い出した。
 閑話休題。さてシリーズの中で何を買おうかと迷ったが、はっきりとした内容までは覚えていないものの一番印象が強かった『蜘蛛男』はこの文庫版にはなかったので(残念)、SFファンとして『宇宙怪人』を買ってみた。
 銀座の空に空飛ぶ円盤があらわれ、中からはねのはえた大トカゲのような怪物が!やがて世界中に空飛ぶ円盤は出現、気味の悪い銀仮面をかぶり人間に変装したトカゲのような宇宙怪人が次々に誘拐を行う。助けて明智先生!
 あれ?再読のつもりで手にとったけど全然内容を覚えてないぞ。まあ何にはともあれ、あやしい宇宙怪人大活躍のなかなか読みごたえのある作品だった。もちろんツッコミどころは随所にあるわけなんだが、いやーこれが自分の原点なのだと再確認してしまったよ。時に暴走気味で予想の斜め上をいく展開、やたらと大仕掛けなマシンの登場、少年向けでもきちんと倒錯的なシーンの折り込み、などなど懐かしい上に随分影響を受けているなあと実感。この他表紙絵がイイ感じなのは『妖怪博士』『サーカスの怪人』『魔人ゴング』かな。みんなイイ感じだけど。あとこの装丁では無いみたいなんだけど『電人M』とかあったな。やっぱり心の故郷だなあ(かなりアヤシイ故郷なんだけど←ソコがいいんじゃない!©みうらじゅん)。
追記10/21 乱歩の誕生日ということで、Googleのロゴがこの装丁のバージョンに!やっぱ浸透度が高いんだなあ。そのうちこの辺に保存されるのだろうか。

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『七回死んだ男』 西澤保彦

 読む本が突然無くなると動揺をして我を失い発作まで起こす活字中毒者は後を絶たないようだが、その境地にはいまだ達していないものの、先日職場に読みかけの本を置き忘れて帰宅途中に読む本が無くなって困った(長距離通勤者なので)。幸いにも本屋が近くにあったので、これまで気になっていたが手をつけていなかった本書を購入した。SFミステリらしいことぐらいしか知らなかったが、おかげで余計なことを考えずに楽しめた。        
 カラフルなトレーナーにちゃんちゃんこというケッタイな格好で行われる親戚一同が揃った新年会で、中心人物たる祖父が頭から血を流して死んでいた。殺人事件!主人公の高校生、久太郎はなんとかしようと思う。実は久太郎、時々ある一日を九回も繰り返すことになるという特異体質で、なんと事件の日にその体質が出てしまったのだ。祖父を救うべく、九回のサイクルでいろいろ試みる久太郎は。
 SFの中で
SFミステリはあんまり読んでいなくて、なんとなく読む前から殺人事件+SF設定というだけで、なんか頭が混乱しそうな気がするし(ただのミステリでも混乱するのに!)、両方の設定のバランスを取るのが難しいんじゃないかと思ってしまうからなのだが、本書は周到に出来ていてわかりやすい。ループする時間を探偵役である久太郎が特権的に様々なやり直しを試みる、というのはミステリで名探偵が真相を明らかにするためにシミュレーションを行うパターンと同じで、基本的にミステリであるわけで、SF的設定の使い方がうまいと思った。ともかく読んでいて、徐々に謎が明かされて後半は畳みかけるようにどんでん返しが決まっていくので気分が良い。コミカルでデフォルメされたキャラクターが多いのは非日常的な設定が使われているので雰囲気にあっているが、その一方で久太郎が高校生なのに年寄りくさいのは特異体質のせいだというのが変な説得力があっておかしい。平凡な高校生が事件を解決しようとして火に油をそそいだりする様子もまた楽しい、コメディタッチのSFミステリである。

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<幻想と怪奇> ポー生誕200周年 ミステリマガジン2009年8月号 

 夏恒例ミステリマガジンの<幻想と怪奇>はポー特集。大昔SFしか読んでいなかった頃、ポーを読んでよく分からなかった記憶がある程度だが、NHKの特集番組「エドガー・アラン・ポー200年目の疑惑」をみたりして、ようやくながら興味がわいてきた。オマージュ短編について感想。

「ポーとジョーとぼく」ドン・ウィンズロウ 授業もろくに出ない落第すれすれの主人公はポーの作品をきっかけに退職間近の老女性教師と連日ランチを食べることになる。劣等生の少年と話のわかる先生、というのも普遍的に心を動かされるパターンだな。小品だけどいいです。
「春の月見」S・J・ローザン 美術館長をしている友人が偽の仏像をつかまされた。オーナーにそのことがばれる前に、なんとか解決したい美術品調査専門探偵。偽美術品をめぐる知恵比べの話。美術商の商売とコレクター気質の兼ね合いみたいなところがポイントになっている。不勉強なんでよくあることだが、小ネタとして登場する川瀬巴水なんて全然知らなかった(wikiによると海外で人気があるらしい)。
「ネヴァーモア」トマス・H・クック ユダヤのルーツを捨てた父親とラビになった息子。疎遠だった二人は、父に死期が迫ったたため病院で面会するようになり、やがて息子は積年の父の謎について問いただすが。クックは初読。正統派人間ドラマミステリって感じ。「告げ口心臓」がモティーフとか。読まなきゃなあ。 

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『ディスコ探偵水曜日』 舞城王太郎

 ミステリチャンネルの‘闘うベストテン2008’をみた、ということで『ディスコ探偵水曜日』に触れたので、いったいどんな作品かなーと思って手に取ったが運のつき。『煙か土か食い物』しか読んでいない自分には相当な難物であった。しかし何はともあれとんでもない問題作なのは間違いない。当方の乏しい読書経験ではあまり似た作品は思いつかない。
  迷子捜し探偵のディスコ・ウェンズデイは解決された誘拐事件の少女梢の面倒をみることになる。さてその6歳の梢が時々17歳になったりして悲劇的な運命が暗示され、さらに他の少女が乗り移ったりする。その梢を救うには福井県にある奇妙な形をした屋敷<パインハウス>のミステリー作家殺人事件解決しなければいけないということになってディスコがそこへ向かう。沢山の名探偵が揃った<パインハウス>でまたまた起こる殺人事件。次々に明かされては覆される事件の真相!やがてディスコはこの宇宙の謎と対峙することになるのだ!
 ・・・・・・いやホントに説明のしようが無い話とはこのこと。謎解きには独創的なSFアイディアが満載でこの作品はSFでもある。その一方
で、単なるめゃくちゃならいい(?)のだが、事件を巡る伏線が細かく徹底的に回収されていくのだから参った。つまり本格ミステリとしての堅牢な世界構築という求心的な力が強力に働くのと同じぐらいの力で世界観を破壊するような数々の爆発的な奇想SFアイディアが遠心力として働いていて、熱っぽい語りの上に危ういバランスで今にも破れそうなギリギリのテンションで作品が存在している感じである。『九十九十九』などを読んでいないのでなんともいえないところもある。それでもアイディアの整合性などはさておいても、ストーリーに比べて謎解きやSFアイディアの比重がやたらと大きく、普通に考えればバランスは崩れており、いわゆる名作とか傑作とはとても言えず、歪んだ作品ではあるだろう。ともかく冒険心溢れるユニークな大作で、ミステリファンやSFファンの話題となるのは当然だ。

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『十角館の殺人』 綾辻行人

 十角形という異様な形をした屋敷のある孤島。その島では半年前陰惨な殺人事件がおこっていた。とあるミステリ研の面々が好奇心から1週間泊まるが、次々と殺人事件が。
 端正なつくりで、これがデビュー作とは。犯人はまたまた意表をつかれたな。前半部のアレがトリックなのね・・・うまい。それにしても犯人は無茶苦茶頑張ったな。努力賞。
 鮎川哲也の解説では、本作が出された頃(と思うが)新本格への風当たりが強かったことが書かれている。そうだったのか。

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『隣の家の少女』 ジャック・ケッチャム

 悪名高い<心底いやな話>である。実に怖ろしいことに実話が元になっている。
 舞台はアメリカの片田舎、主人公デイヴィッドは美しい少女メグと友達になる。隣同士と分かって胸をときめかせるが、転居して来たメグには悲しい過去があり、隣家では辛い立場に置かれていたのだった。
 タイトル通り少女が酷い目に合うという話である。そういう意味では、これまたエスカレートする物語(もちろん『ツィス』とは話の質そのものが随分違うけど)。虐待行為自体も目を背けたくなる内容だが、むしろ行う登場人物たちの描写が見事で、読む前に予想していたのと異なる衝撃を受けた。ケッチャムは、平凡な人間達の心に潜む暴力性とそれと対峙しようとしない欺瞞を嫌というほど眼の前に突きつけてくる。そう、デイヴィッドの苦悩は我々のそれなのだ。

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