もちろん

 もちろん村上春樹訳『ティファニーで朝食をが出たのは話題なのだろうなあ。
 ようやっとのレベルだけど原書で一度読んだから、まあ読み直すとしてもまずは原書の方にしたいと思っていて、いまのところ購入は考えていない。だけどあとがきだけ読んでみた。そこで村上春樹は、プリンプトン(カポーティの伝記作家)が「カポーティは将来『冷血』を書いたノンフィクション作家として記憶される」と書いたことに異議を唱えていたが、これは全く同感。あくまでも陰鬱で幻想的な中短編フィクションこそが中核だろう。

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DVD‘冷血’

  久々のカポーティネタである。ようやくみますた。1967年作、映画の‘冷血’。
  ダークでへヴィといった印象の強い作品である。原作に忠実に筋を追っていて、派手な演出は特にない。しかしひとつひとつのシーンが心理描写を含め丁寧に描かれ、今からみるとそれほど残虐なシーンは登場しないのだが、スリリングで息の詰まるような重さがのしかかってくる。なんといってもペリー役のロバート・ブレイクの迫真の演技が素晴らしい(後に殺人罪で起訴されたそうだ。結局無罪だったらしいけど)し、ディック役のスコット・ウィルソンも感じが出てる。缶あつめの少年と老人のエピソードもつかの間の平穏な空気感がよく出ていて、原作の詩的な一面も表現されている。
 あらかじめ犯人が捕まる気まぐれな金目当ての殺人の話だとわかっているし、あまりに正攻法なつくりなので、爽快感や普通のいい話を求める人には、2時間余のこの作品はキツいかもしれない。しかしモノクロが十二分に生かされた闇の深い映像と力のこもったつくりは重厚で、観る者をグッと鷲掴みにする(サイコ・キラーやスプラッターが当たり前になった今は逆に作れないかもしれない)。特にカポーティファンは必見だろう。

 ところで‘冷血’のDVDには昔の映画の予告編がいくつかついていた。ちょっと変な日本もの(ケリー・グラントの‘歩け走るな’)などもあって面白かったのだが。本格ミステリのパロディ映画‘名探偵登場(原題:MURDER BY DEATH’にカポーティが出演しているのを知った。確かTVで‘名探偵登場’は以前に観たことあるんだが、あのけったいな家主がカポーティだったのか。いやー知らなかったなあ。


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映画‘ティファニーで朝食を’(TV視聴)

 NHK-BSでやっていたので観た。
 なんとなく原作とは違いそうだと思っていたのだが、予想通りだった。原書で読んだので細かい筋には自信がないが、おおむね流れは同じだったように思う。ただ肝心なところやら演出やらで原作のダークな部分が丁寧に排除されており、全体としてまったく印象の違うものとなっている。要は思いっきりポップにアレンジされいるのだ。主人公はちょっとした都会の孤独を楽しむ無邪気なお嬢さんにしか思えない。永年名画として人気があるのだからまあ今更文句をつけるのもばからしい気もする。ただカポーティの資質が誤解を受ける一因にはなりそうだが。華やかに都会暮らしをする女性という現代でも通じるモチーフを提示しているだけでもカポーティの天才がうかがえる、とファンとしては言っておくか。
 おもちゃの指輪に模様を彫るという無茶な要求にティファニーの店員が応える、というシーンがある。ティファニーのCMとして非常によく出来ている、と同時になんと実質的にやすくついたCMだろう。

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‘Music for Chameleons’ Truman Capote

 細々と読み進みようやく読了。3ヶ月くらいかかったかなあ。
とはいえ、こちらが怠惰で英語力が乏しいだけで、基本的に読みやすい。会話の部分は、シナリオのように誰のセリフかわかるように書いてあるし。いちおうノンフィクションという触れ込みだが、小説のように書かれているものも目立つし、まあフィクション的な部分も含まれているのかもしれない。どちらかはそれほど気にならない。全体によく作りこまれているというよりは、さらっとスケッチのように描かれているものが多い。とはいえ孤独と純粋さと残酷さと下世話さがない交ぜになったようなカポーティワールドが十二分に感じられる。以下印象に残ったもの。

‘Hospitality’ 短いが、小さい頃から犯罪者との接点があるのが、らしい。
‘Handcarved Coffins’ 全体の1/3を占める。手彫りの棺を事前に被害者に送りつけるという連続予告殺人事件の話。ノンフィクションということらしいが、ホントにこんなことがあったのだろうか。ラストまで引くつけられる緊迫感がカポーティならではの傑作。
‘Hello, Stranger’ 見知らぬ少女からの瓶に入ったメッセージを拾って・・・という話。おぞましい結末に背筋が寒くなる。
‘A Beautiful Child’  マリリン・モンローというのも光と影を感じさせるカポーティ好みの素材だ。
‘Nocturnal Turnings, or How Siamese Twins Have Sex’ 内容は奇妙な自己対話的エッセイだけど、「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」を並行して読んでいたから偶然に驚いたよ。あるものでは「ロリータ」への言及もあり、偶然続きの奇妙な体験だった。
 エッセイでは、いろんなセレブリティの名前が出てきて(三島由紀夫まで会話に登場する)面白い反面、有体に言えば俗物ぶりもうかがえる。まあそんなところもいかにもカポーティなのだが。

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Breakfast at Tiffany's Truman Capote

 頑張って原書で読んでみた。ちなみに原書読了はこれまで数冊程度)。翻訳で作者固有のモチーフを飲み込んでいたからか単語が平易なのか、思ったより理解できた。
 韻や語呂合わせが頻繁に登場しており、文章のリズムが(ノーマン・メイラーが裏表紙で指摘するように)良い。もちろん翻訳の難しさもうかがわれる。いかにもカポーティらしい都会の孤独が描かれたちょう有名な表題作、会話のクオーテーションマーク(‘や“)なしが効果的な陰鬱で残酷な男女の物語‘House of Flowers’、刑務所に新しくやってきたギターをひく若者をめぐっての‘A Diamond Guitar’、これまたらしい(たぶん)南部を舞台にした老嬢と少年のクリスマスストーリー‘A Christmas Memory’、どれも楽しめた。勉強になるのかも知らんけど、当面は本書の訳本を読む予定はなし。

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映画‘カポーティ’

 映画‘カポーティ’を初日から観にいった。(とりあえず観にいくのに多少時間のかかる地域に住んでいることを告白しておく)
 正直客の入りは初日にしては今ひとつ。うーん大丈夫なんでしょうか。
 で、肝心の出来なのですが可もなく不可もなくといった感じ。フィリップ・シーモア・ホフマンの成り切りぶり(上映前に流れていた本人の肉声とそっくり)、ペリー役のクリフトン・コリンズJrは印象に残るし、ハーパー・リーとジャック・ダンフィーもイメージ通り。ただ予備知識のない人にはやや説明不足な感じだし、逆に知っている人には事実をなぞっているだけのような気がする。まあメディアが違うから、カポーティ作品との比較はしないことにしよう。正直どうしてもないものねだりをしたくなるけどね、もう少し怪奇幻想風味が欲しいとか。フィリップ・シーモア・ホフマンのワンマンショウとしては、ちょっとくどいけど楽しめるかな。数本彼の出演映画を観た気がするが、毎回癖の強いいろんな種類の役をやっているのに感心。そういえば昔の‘冷血’のDVDが出てるな。観てみたくなったなあ。

※soramoveさんからトラックバックを頂きました。どうも有難うございます。(2006 10/3)
※映画と本と音楽にあふれた英語塾のゴウ先生からもトラックバックを頂きました。
有難うございました。(2006 10/17)
※MANAMIさんからもトラックバックを頂きました。有難うございました。(2006 10/27)

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『夜の樹』 トルーマン・カポーティ

   美しく儚く歪んだ世界。ほとんどが20代前半で書かれているのが信じられない。作品の完成度もそうだが人間の暗い部分に対する底知れぬ洞察力がとても若者のものとは思えない。
 「ミリアム」「夜の樹」にはいずれも孤独な女性の静かな時間をおびやかす侵入者が登場する。その恐ろしさと鬱陶しさの混ざったいやーな感じが実に素晴らしい。ニューヨークの広告業界で働く傲慢で傷つき易い男の話「最後の扉を閉めて」は、作家自身の人生を予見したかのような驕慢と裏切りと慰みの話で変にドキドキしてしまう。絵画をめぐる秀逸なホラー「無頭の鷹」は細部の良さも際立ち、その筋の人にもおすすめ。「ぼくにだって言いぶんはある」も相当悲惨な結婚失敗話(ちょっと聞いてよ!みのさん!)なのだが、珍しくコミカル。「夢を売る女」「銀の壜」はいわゆる奇妙な物語でわりと普通。
 「誕生日の子供たち」「感謝祭のお客」では子供たちの生き生きとした姿が見事。解説ではそうした無垢なるものの話と都会の孤独な話をはっきり区別しているがちょっと違和感ある。子供たちの見る世界も彼らが傷ついているためにどこか歪んでおり、残酷なルールにも支配され、たくさんの美しい瞬間が描かれながらその儚さも無残に示されているのだ。(それにしても「誕生日の子供たち」のような読後感を味わったことはこれまでになかった。まんまと語りの術にはめられたのだ。)もちろん大人たちもいわゆる成熟した人たちではない。「感謝祭のお客」に出て来るミス・スックは60代にも関わらず大人よりも子供の世界の近くにいるように、都会を舞台にした話の主人公たちも大人でありながら社会にうまく適合できない、あるいは不安を抱えた人々である。つまりどの作品も子供が主人公、というようなものだ。さらなる驚きは、これらの作品に出て来る大人のような人間に作者本人がなってしまったことかもしれない。ラファティの名言が思い浮かぶ。「わたしはおとなにはならなかった。ただ、みっともなく年をとっただけだ。」
 いや、カポーティのような大天才の作品と実人生を重ね過ぎるのは失礼だろう。孤独な人間のみる美しい悪夢が見事に描かれた名作揃いなのだから。

 ああところで牛島にはもう少しやってもらいたい気はしています。<ベイスターズ
追伸:だめだったようす

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『トルーマン・カポーティ』『叶えられた祈り』

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トルーマン・カポーティ〈上〉  〈下〉

おびただしい証言によりカポーティの人物像に迫る本。無邪気すぎる上昇志向とその挫折といったまさにフィクションのような人生がかいま見られる。派手好きで自己顕示欲が強い一方で南部出身のコンプレックスの強い小男の素顔がのぞいたりもする。それにしても証言する人もさることながら、話に登場する有名人まで加えると驚くばかりの多彩さである。そういう意味では実に華やかな本である。いやこんなにパーティばかりすると体に毒ですよ!<いったい誰に言ってるのやら
パーティ好きのアーティストということで、ウォーホルとどんな関係にあったのかな?と思ったら、なるほど最初はつきまとってたのはウォーホルの方なんだなあ(あたりまえか)。他にカミュやコクトーの話まで出て来たりもするが、変わったところでは経済学者のガルブレイスが証言していたりする。奇妙なエピソードもある。父親を愛人として家庭から奪っておきながら、その後にも娘と交遊を保ち、手助けをする。夢の中に生きた人らしい素晴らしく地に足のついていない話である。ベトナム戦争の裏での舞踏会というのも興味深いし、70年代ぐらいのゲイ、ディスコ文化のやりすぎな雰囲気も何だかスゴイ。

410209507101 叶えられた祈り

で、結局「叶えられた祈り」でそうした社交界のゴシップをばらして自爆しちゃうわけだ。ただ未完の作であり、この本そのものは傑作とは言いがたい。ホッパーの絵は好きなんだけどね・・・。酷いゴシップの数々は、ただ散漫に羅列されているだけ。実名も仮名も混ざり、本書単独だと何がスキャンダルになったかも分かりにくいし。好奇心の強いひとは前者のインタビュー本の方も読むと分かります。カポーティ版「失われた時を求めて」を目指したという話もあるが、もちろんプルーストは読んでないので、カポーティの意図は分からない。っていうかまず「夜の樹」読まなきゃ。

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『冷血』 トルーマン・カポーティ

 映画を観る前の予備知識アップのため、カポーティ強化中。
 で、この<ノンフィクション・ノヴェル>は現代ジャーナリズムに相当な影響を与えたらしい。実際、例えば同テーマの犯罪実録本は山ほど出ていて、本書の後半での犯罪心理の分析などはありふれているとさえ感じられるものだ。もちろん逆に、カポーティからの影響が大きいともいえるだろう。膨大な資料から得られた様々なエピソードは時に重く悲しく、時に衝撃的であったり意外であったりする。それはそれこそ尋常ではないほど念入りな取材によるものなのだろう。しかし、本書はあくまで<ノヴェル>であることをうたった作家によるものなのだ。それぞれのエピソードはまさしく「事実」なのだろうが、解説にもあるように、主眼はやはり物語を描くことにあるのではないかと思われる。
 ところどころ出て来る風景描写が素晴らしいのは当然ながら、全体に細部が印象的だ。ペリーの繰り返し見る大きな鳥の夢や独房での妄想など本筋に近いヘヴィなものが迫力があるが、逃走する間に出会う空き瓶拾いの少年と病気の祖父の二人組のような傍流の話がふわりと心に残る。

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