『月は無慈悲な夜の女王』 R・A・ハインライン

 昨年夏祭りで収穫した大量のSF古本。ほとんど積読状態になっているが、なんとか少しずつ消化を。というわけでいまさら(SFのちょう有名な作品を読む)シリーズとして本作を読んだ。
 2075年の地球の植民地として富を吸い上げられている月世界。圧政の中、自意識を持つコンピュータの力を得た月世界人は独立に向け立ち上がる!
 長めの作品だが、そこはハインラインなのでさくさく読める。ただ微妙なのは、今からみるとコンピュータがやはり擬人化されている印象。当時としてはきっと斬新なんだろうけどね。人間個人のアイディアと不屈の精神で諸問題を解決する、といった流れはまあアメリカ人だしハインラインだしこんなところかな。ただ巧くいえないが、政治的なテーマも現在の世界における諸問題と多少立脚点が違ってしまっている感もある。
 
 ちなみにオールドSFファンはよく知っているのだろうが、原題の直訳は‘月はきびしい女教師’。ちょっと訳題で得をしているのでは。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『超生命ヴァイトン』 エリック・フランク・ラッセル

 ガーンズバックに続き、積読していたハヤカワ・SF・シリーズもの。
 2015年の未来社会。高名な科学者が5週間で19人も急死、その背景には正体不明の光球生物が!!筋は面白そうでしょ。でもね・・・。
 「人類は実は家畜だったのだ」といった話がまえがきに熱っぽく語られる、1938年雑誌初掲載という人類家畜テーマの歴史的作品(らしい)。当時としては最新の知見を入れて、理詰めで書かれているのだろうと推察はされるのだが、基本的にテーマがなんというか無理があるというか。その生物の行動原理がいま一つ見えず、話に集中できない。後半の話のポイントはいかに人間が攻撃に転じるかないので、多少無茶苦茶でもテンポよくすすめば楽しめたが、どうにものんびりしていていま一つ乗り切れない。
 むしろ書かれた背景に興味がいくかな。以前からいたはずの光球生物が科学技術で見えるようになるというくだりがある。この話には、科学技術の進歩で「これまで見えないものが見えるようになる」不安があったのかもしれない。そして人間の視界を拡げる方法として、メスカリンもその一部として登場する。この辺りは(時代背景から見て)ドラッグによる意識拡大といったイメージが反映されているように感じられる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『ラルフ124C41+』 ヒューゴー・ガーンズバック

 ワールドコンの‘テスラ―ガーンズバック連続体’の流れで、積読だった『ラルフ12441+』を読んでみた。ごく単純なストーリーにおびただしい数のSFアイディアをこれでもかというほど盛り込むパターンは意外に今のSFにもありそう。エーテルとか時代を感じさせるものも多いが、アイディアは書かれた年(1911)を考えると発想の豊かさには敬服する。一方で話としては、天才科学者が主人公でロマンスがあって悪役がいてというフォーマットも継承されたのかなという気もする(オリジナルとは考えにくいけど)し、オチもちょっと興味深い。無線機器開発も行ったという彼の科学知識(と実体験)に基づいたアイディアの圧倒的な量には驚かされるし、何よりむしろアイディアが物語の主役である転倒ぶりが特徴で、後のSFの方向性をつくったと言えそうだ。そしてその核にあるのは、おそらく当時発展していった電気事業(解説のガーンズバックの生涯に電気事業とのかかわりがのっている)。いわば「電気の夢」だ (電波、と言った方が感じが出るかも)。もちろん今となっては、未来人や火星人の心理の平板さ(現代人との全く同じ思考)、無防備な科学礼賛ぶりなどに古めかしさがあるが、初期SFの一つの典型的なフォーマットを見るという点で永年のSFファンとしてはなかなか楽しい読書であった。さらに面白いのは解説に書かれているその生涯だ。ルクセンブルグの裕福な家に生まれ、その後アメリカに渡り、無線・出版などの事業に取り組み、自らも小説を書いてSFの祖となるというまさに波乱万丈ともいえる経歴。トンデモ気味な出版業者との戦い、なんてオマケまである。むしろ現代にこそ楽しめるようなネタばかりだ。
 ところで電気を使って、植物の成長を促進するというようなネタが登場するが、わざわざ「交流ではなく直流でないといけない」という内容で書いてある(P79)。別に本筋とは関係ないし、テスラとの関係を考えれば交流でもいいような気がするが、ちょっと気になるところだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『ニュー・ワールズ傑作選』

 ブログ開始から1年が経ちました。当てもなく続けているような中、読んで頂いた方々には多謝多謝であります。
 1年でいちおうメインとしていた読書感想は60冊ぐらい。新刊ないしそれに近いタイミングのものは14冊ほど。SF系は30冊ぐらいで約半分。もう少し新刊を増やしてフレッシュな感じにしたいものである。

さて1周年記念のネタはこれである。<新刊どころか、やたらと古い本じゃん!(実はここで実物を手にしてから興味が出てリアル古書店で購入したのである)
 SFを読み始めてほどなく、ニュー・ウェーヴSFという強敵に出会った。1980年代初めぐらいのことである。なんだか暗い感じだし、なにより難しくて何が書かれているのかさっぱり分からない。特に翻訳作品が分からない。大体登場人物の名前が覚えられない。そんな時、「よく分からぬものは無視するという」のは大変賢明な態度であるが、当ブログの中のオヤジは何とかしてしてそれらを理解できる立派なオトナになりたいと考え、ともあれその厄介なものに挑戦することにした(理解ができることが必ずしも立派でもオトナでもないことは後になって知るのだが)。大体において10代の頃はそういった難しいものに背伸びをするのが好きだろうし、単にそのパターンにはまっていただけといえる。ただ、ひとつ自分なりにいえば、何よりもニュー・ウェーヴがカッコよく思えたということである。そのカッコよい印象というものはサンリオSF文庫のイメージと一体化していた、と書いてオールドSFファンの中に首肯される方もあるだろう。
 かくして、断続的に少しずつニュー・ウェーヴSFを読み続け、今に至る。未だによく分からないものもあるが、時代の流れもあり、印象が変わることになったものも多い。全くピンと来なかったバラードの凄さが理解できるようになったのは大きかったし、一言でニュー・ウェーヴといっても個々の作家で目指しているものにそれぞれ違いがあったことも分かった。そういえば昔クリストファー・プリースト、バリントン・ベイリー、イアン・ワトスンまとめてバラードの不肖の弟子なんていわれていたこともあったなあ。今にしてみると、ひとくくりにするのは無理があるような気がするが。
 そういったわけで(どういったわけだ?)浅倉久志・伊藤典夫の黄金コンビの提供による『ニュー・ワールズ傑作選』である。。現在ではふつうのSFといって通じるものも多いし、読みにくいというほどでもない(さすがに濃縮小説は厳しいかもしれないが)。少なくとも『新しいSF』(サンリオSF文庫)より個々の作品はふつうっぽいといえるのではないか。

 「小さな暴露」(ブライアン・オールディス) 至極まっとうなSF.イメージが映像的で鮮烈なのがオールディスの美点と思う。

 「12月の鍵」(ロジャー・ゼラズニイ) これもストレートなSFだが抒情的でさらにメインストリームな感じ。

 「暗殺凶器」(J・G・バラード) 昭和46415日発行の本書で、初めて濃縮小説が紹介されたことになるらしい。あまり先駆性、先駆性と騒ぐとアホみたいだが、〈断片化してゆく世界〉を描くための手法を見つめていたバラードの慧眼には感服せざるを得ない。

 「ノーボディ・アクスト・ユー」(ジョン・ブラナー) 解説では「アメリカ的パルプSFの悪癖から脱却したとはいえない」などと厳しいことが書かれている(本書ではそれぞれの作品に訳者が解説を書いていて、本作は伊藤典夫氏が担当)。個人的にはジョン・ブラナーは優れた視点の持ち主だと思う。本作の背景は人口爆発社会のディストピアを描いていて、その点は現代の日本ではピンと来ないものの、本筋のネタは暴力的テレビドラマによる人気女優という20世紀SFのシリーズでも繰り返し扱われていた〈メディアとアイドル〉のテーマであり、なかなかいいところをついている人なのではないだろうか。

 「二代之間男」(デイヴィッド・I・マッスン) マッスンの「旅人の憩い」は、スケールのでかい思索的ハードSFが短い中に凝縮されている傑作で、ある意味でイーガンを思わせるところすらある(順番は逆だけど)。本作はそれとはまた違い、基本的にはコミカルな話を擬古文で描いている(らしい、原文はみていないが)1693年からタイムマシンでやってきた人物が現代社会をどう感じ取っているか、という話だが、その現代社会がまた数十年経って変わっているのでこれまた不思議な作品になっている。マッスン自身もニュー・ウェーヴと共に去っていった謎の作家らしい。浅倉御大の凝りに凝った訳文が凄い。

 「音楽創造者」(ラングドン・ジョーンズ) 『レンズの眼』は持っていないけど、いつかは読んでみたい。本作はディスカッションがなかなか興味深い音楽SF。これもストレートなアイディアSFと言えるのでは。

 「リスの檻」(トーマス・M・ディッシュ) 最初に読んだのはいつのことだったか。さっぱり分からなかった(吾妻ひでおのパロディは笑ったけど)20世紀SFの時ですら、ピンと来なかった。その後『アジアの岸辺』が紹介され、ディッシュへの言及が多くなり、本作が作家の内面を描いたものだと知ることになった。読書としては、外情報から解読するのは邪道かもしれないし、自分の読解力の程度には情けなくなるが、ともあれディッシュが随分身近になった。

 若かりしムアコックの熱い奮闘ぶりが、巻末のニュー・ワールズ小史でうかがえる。手に入りにくい本も多いし、意図したSFの革命に寄与したとも思えないものも(正直なところ)多そうな感じもするが、個人的体験として今後もニュー・ウェーヴSFを読んでいくと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

P-funk | ちくま文庫日本SF・ミステリ | オンライン雑誌、小説 | カポーティ | クリストファー・プリースト | クレイジーケンバンド | サミュエル・R・ディレイニー | サンリオSF文庫 | スタニスワフ・レム | ソウル/R&B | ダーク・ファンタジー・コレクション | ディック | トマス・M・ディッシュ | ニール・ゲイマン | ネット読書企画 | ハヤカワ プラチナ・ファンタジイ | ハヤカワ 文庫SF(日本) | ハヤカワ 文庫SF(海外) | ハヤカワ 海外SFノヴェルズ | ハヤカワ Jコレクション | ハヤカワ・SF・シリーズ | バリントン・J・ベイリー | ブラジル音楽 | ベスター | ポン・ジュノ | マンガ、海外コミック | ミステリー | ミステリーの本棚(国書刊行会) | モダンホラー | ロック | 一般ノンフィクション | 一般映画・DVD・テレビ | 世界文学全集(河出書房) | 中村融 | 倉阪鬼一郎 | 光文社文庫 | 円城塔 | 創元推理文庫海外 | 創元文庫SF | 古典新訳文庫 | 国書刊行会SF | 奇想コレクション | 年刊SF傑作選(ジュディス・メリル編) | 徳間文庫 | 扶桑社海外文庫 | 文化・芸術 | 文春文庫海外 | 新潮文庫SF海外 | 新潮文庫SF日本 | 日本文学 | 日記2006 | 日記2007 | 日記2008 | 日記2009 | 河出文庫SF | 海外文学 | 異形コレクション | 異色作家短篇集 | 科学ノンフィクション | 若島正 | 角川文庫(海外) | 読書一般 | 野球 | 鎌倉2007 | 鎌倉2008 | 鎌倉2009 | 鎌倉の小説、マンガなど | 鎌倉園、植治 | 集英社文庫 | 青心社SF | 音楽youtube | 麻耶雄嵩 | H・G・ウェルズ | J・G・バラード | SFイベント | SFノンフィクション | SFマガジン | SF/ファンタジー映画・DVD・テレビ