『歌の翼に』は9月刊行予定

 少し前に情報がアップされていたのでご存じの方も多いと思うが、ディッシュ『歌の翼に』がようやく出そう。なるほど<未来の文学>に組み込まれたということなのね。いずれにしても良かった(今度は『ダールグレン』の方が心配になったり)。

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SFマガジン5月号 ベイリー&ディッシュ追悼特集

 待望の二人の特集号である。エッセイや特集解説をあっさり読み終えてしまうと、前にも書いたように二人いっぺんというのは分量が少なくて残念だなあと感じたのだが、短編がどれも両者の個性が出ていて気を取り直した。
 ベイリーとディッシュ。同じニューウェーヴSF期の作家でありながら、イギリスとアメリカというだけでなく、片や破天荒なアイディアと独自の論理構築で一部に熱狂的な支持を得たベイリー、片や文学的技巧に優れ多ジャンルの著作をものにした玄人筋で高い評価を得たディッシュ、
ある意味で対局の立ち位置にある作家ともいえる。ちなみにディッシュのSF評論集‘The Dreams Our Stuff Is Made Of’(いまだ読み途中)のIndexにベイリーの名は残念ながらみられないので、ディッシュがベイリーの作品をどう思っていたのか自分にはわからない。洗練とは無縁で破壊力が売りのベイリーと鋭い批評眼と同時に数々の傑作で今後も高い文学的評価を得るだろうディッシュが、英語圏ではない東洋の雑誌で特集として同席することになったことを天国でディッシュが知ったら苦笑しているかもしれない。それでも二人のたたずまいには、必ずしも十分な評価を得られなかった孤独な創作活動といった点で、どこか共通点があるような気もする。それぞれの立っていた場所はずいぶん違っていたかもしれない。しかし妥協を許さない創作および批評活動ゆえに孤高の立場とならざるを得なかった晩年のディッシュと誰も真似できない独自のSFを周囲の評価と関わりなく作り続けていたベイリーの姿はなぜか重なってみえる(晩年のディッシュの困窮は多少知っていたが、今回の特集では売れない兼業作家の状態でも書き続けていたベイリーの姿も大森さんの解説に出てくる)。そこには真摯な創作への思いがあふれていて、読者として心を揺り動かされるのだ。
 
 以下今回収録の短編について。まずはベイリーから。
「邪悪の種子」 待望の異星種族が太陽系に登場した。百万年生きたという彼は多くを語ろうとしなかった。傑作というほどではないけど、変な宇宙人がいい味を出している。
「神銃(ゴッド・ガン)」 友人ロドリックは神を打ち抜く銃を発明したという。神狩りですか。短いバー・ストーリーといった趣きだが、ベイリーならではのワン・アンド・オンリーの論理が展開される、実にらしい話。オチも含めてね。
「蟹は試してみなきゃいけない」 驚きの性春!蟹SF。いや本当にそういう話だとは。一読必笑の傑作。英国SF協会賞を受賞した人気作で
こういった路線の才能もあるんだなと感心したが、特集解説に出てくる本人の談話「どの作品がだれに気に入ってもらえるか、私の予想は昔から当たったためしがない」にちょっと目頭が。

 続いてディッシュ。
「ナーダ」 コミュニケーションを取るのが難しい少女ナーダには驚くべき能力があった。女教師の心理描写、伏線となる会話などやっぱり巧いなあ。
「ダニーのあたらしいおともだち」 スラデックとの共作。ジョークみたいな小品だけど、しっかり毒入り。
「ジョイスリン・シュレイジャー物語」 実験映画批評家の主人公はある若い映画作家と恋をする。普通小説。「ナーダ」もそうだがディッシュにはニューヨーク作家としての一面があるのかもしれない。70年代のニューヨークのアーティストたちの生活が垣間見えるような作品でほろ苦さとしみじみとした味わいがなんともいえない傑作。

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ディッシュ&ベイリー特集

 そうそう。もうすぐ出るSFマガジン5月号(3月25日発売)はディッシュ&ベイリー特集だ!二人まとめずに、それぞれで十分な分量の特集を組んでもらいたかった気もするが。いやいやこの際気を鎮めて待つことにしよう。皆さんもお買い逃しなく!

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いまいちど『歌の翼に』

 再読してみた。やはり名作である。
 基本的なストーリーは皮肉屋ディッシュとしか言いようのない展開で、彼の最期を思うと実に痛ましいシーンも散見される。しかしこの小説の柱には主人公ダニエルの飛翔への憧れが絶え間なく流れているし、ヒロインであるボウアとの関係など彼自身の意思が強く現れているところもみられ、全体に悲惨な出来事が続く中にも力強さが感じられる物語となっている。
  再読して凄いなと思ったのは、テロが日常化して高度管理社会となってしまった閉塞的な近未来の米国が見事に描出されていることだ。時折生活を脅かす社会的な出来事が挿入され、配給制という言葉が登場するような非常に厳しい状況が示唆される。一般的にSFで使われる<上からの視点>で時代を追って歴史を記述していく方法をとらなかったことによって、あくまでも個の視点から絶望的な社会状況における人間が描かれているのだ。しかもダニエル自身特に政治的な人物ではないので、より多くの読者が身近な存在として読むことが出来るようになっている。また、その社会背景も考え抜かれているので(SFとしても読み応えがあり)、ダニエルの苦悩や夢は切実なものとして感じ取ることが出来る。だからこそ今必要とされる小説なのだと思う。
 個人的に興味深いのは、後半にダニエルが音楽業界に入ってからの話にミンストレル・ショウが大きく組み入れられていることである。ミンストレル・ショウはアメリカのポピュラー音楽の重要なルーツの一つで、十九世紀なかばから後半にかけて白人が黒人の扮装をして行った歌入りコミック演芸をいう(中村とうよう『ポピュラー音楽の世紀』)。黒人差別的な要素を多分に含んだこうした演芸から、結果的には黒人による文化が広まったり様々な音楽が融合した現代のポピュラー音楽が生まれるきっかけが出来た(ミンストレル・ショウそのものは毒抜きされるなど変質していったらしい)。これは「アジアの岸辺」などにみられるディッシュの好む<変身譚>テーマ(SFマガジン11月号若島正 乱視読者のSF短篇講義をご参照)にふさわしい題材である。それから各所にゲイらしいセンスも垣間見えるのも再読しての発見だった(そういった要素は慣れていない人には少し分かりにくいのかもしれない)。こちらの方についてはより詳しい人の考察を聞いてみたい。
 SF寄りの視点でみると、文学的な成功を目指しどちらかというと未来を予見すること自体にはそれほど重きを置いていなかっただろうディッシュが、優れた小説をものにしようと思考実験を重ね、伝統的な文学テーマを熟成させて、時代が経っても変わらない人間の本質を射抜いたために、あたかも現代社会を予見したかのような素晴らしい作品が生まれたこともまた非常に重要なことのように思えてならない。とにもかくにも何度も読み返す必要のある傑作である。

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『歌の翼に』!ぜひ!

 京フェスには行っていないんで『歌の翼に』の復刊話も知らなかったのだが、その話を聞くや否や柳下毅一郎さんの日記によると『歌の翼に』の復刊話が大ピンチに!!おおおこれはいけません!!微力ながら声をあげるよ!!
 『歌の翼に』は大傑作。何が素晴らしいって『アジアの岸辺』と並んで読み易い!読み易いということでは『M・D』だってモダンホラーでそうなんだが、『歌の翼に』にはより普遍的な感動がある。孤独な少年が苦難を乗り越え歌いそして飛翔するすがすがしさそして開放感は類をみないもので、ディッシュという強面の名を意識しすぎると戸惑うくらいだ。ディッシュの長編の中では、意外と地味に感じられた『人類皆殺し』、実は(恥ずかしながら)歯が立たなかった『334』『キャンプ・コンセントレーション』、面白いがやっぱり冷たさの漂う『M・D』と違って、『歌の翼に』は一番素直に楽しめた(ていうか唯一)。ディッシュの死後、主人公ダニエルに本人を重ねてしまうのは、クールなディッシュには本意ではないのかもしれない。それでも彼らしくないかもしれないこのさわやかな傑作には、何か特別なものを感じずにはいられないし、このような傑作が幅広く読まれる機会が失われるとすれば本当に残念でならないのだ。
 ぜひ!いや必ずや復刊を!!祈る!!

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ディッシュ

 トマス・M・ディッシュが亡くなった
 単なる気まぐれな熱心ともいえない読者の一人である自分にとっては、その心境などはかることもできない。ただ、最近『アジアの岸辺』の出版などで、難解とされてきた彼の作品にようやく理解できる手がかりが得られそうな気がしていただけに、ひどく残念な気がしてならない。
 自分がSFを読み始めた頃に、LDG論争というものがあり、当時のジョージ・R・R・マーティンら新世代作家に対して、立場の悪さ(下の世代に苦言を呈する名のあるベテラン、なんていうポジションはカッコ悪いものだ)もあえて承知の上で、一人問題提起を続けていた真摯な姿が強く心に残っている。結局、論争自体の噛み合いは不十分だったが、ディッシュ個人の資質といったものを感じられた出来事だった。
 近年の紹介のおかげで、その背景にある様々なジャンルの文学作品に興味を持つことが出来るようになった恩人でもある。今回のことはショックだが、また彼やその関連の作品を読んで、思いをめぐらさていきたい。

 追記:まだショックがおさまらないので、自分のつけていた読書メモなどを参照して、だらだらと回想。さあのうずがSFを読み始めた中学生くらいの頃から、SFマガジン上などでディッシュは一目置かれる存在であった。なにがどう凄いのかはよく分からなかったのだが、人類全体を冷徹に見据える『人類皆殺し』が高い評価を受けていて、クールな視点を持っているニューウェーヴの旗手という革新的なイメージがあった。ただ『人類皆殺し』については読んだものの実は、思ったより普通だな、といった程度の印象だった。その後読んだ「リスの檻」はよく分からなかった(吾妻ひでおのパロディは面白かったし、そりゃあ『いさましいちびのトースター』は楽しんだけど)。上記のようにむしろ印象に残ったのはLDG論争での硬派ぶり。正直マーティンらがとまどっているという微妙な感じの論争だったが、個人的にはサイバーパンクの時期にSFを離れていたので、海外SFでの論争とかそういう批評的動きで記憶に残っているのはLDG論争だったりする(多分に個人的な理由)。
 その後随分時間が経ってしまうのだが、21世紀になり殊能将之HP a day in the life of mercy snowでディッシュが技巧派と呼ばれるゆえんを教えてもらう(かのHPには教えてもらうことばかりである)。その頃出た河出文庫の20世紀SF3巻(1960年代)で「リスの檻」に再挑戦したがやっぱりよく分からなかった。それでも、雑誌やネットでディッシュへの言及がちらっと登場するようになって、「リスの檻」が作家や書くことについての小説だと知る。なるほど自分が読んできたSFにも全く知らない面があるのだな、と遅まきながら知る。それで『キャンプコンセントレーション』『334』と挑戦するがやはり難しい。ところが2004年に『歌の翼に』を読んで印象が変わる。すいすい読める。そしてディッシュらしからぬ感動の物語。そこにいたってようやく(あまりにもようやくだ!)ディッシュの力を知る。そして『アジアの岸辺』。本当に傑作ぞろいで、なるほどディッシュは巧くて面白い作家なのだと分かった。その後読んだ『M・D』ではモダンホラーへの接近が見事だった。こうしてみると随分時間がかかってその姿を捉え始めたのだと我ながら思う。それだけに寂しい気がする。せめて京都で買った‘The dreams our stuff is made of’を少しずつ読もう。あと『キャンプコンセントレーション』『334』の再読も。
 

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